役員社宅とは従業員の中でも特に役員が利用する社宅の事です。
ここで紹介する役員社宅制度とは会社名義で社宅を保有もしくは借りて役員に貸し、家賃の一部を徴収する制度の事を指します。
通常の社宅との違いは役員が支払うべき家賃の金額を決めて企業側に支払うことです。
役員社宅は、企業側の家賃負担分は全額損金算入できるため、節税効果が大きいのが特徴です。
税法上で役員社宅として認められるには、3つの条件があります。
・賃貸契約は法人名義で結ぶ
・家賃の一部を役員本人が自己負担する
・大家への家賃の支払いは、名義人である法人が直接行う
また役員社宅は床面積によって住宅の種類が分けられています。それぞれ役員の家賃負担額が異なるので、正しくルールを守って活用することが必要です。
役員社宅のメリット
①会社負担分を経費にすることで節税できる
役員社宅制度の一番のメリットは節税効果が大きいことでしょう。
その理由としては役員が会社名義で借りている物件に住む場合は企業側が負担する家賃は経費として計上することができるからです。
例えば、役員が住むマンションの賃料20万を会社が契約して、半額の10万円を会社負担としたとすると、
10万円×12か月=120万円/年が全額損金として計上できます。会社の利益が120万円減ることになり、その分法人税が減ることで節税できるという訳です。役員社宅は経費にできる金額が大きい為あえて会社名義の賃貸に住んでいる経営者の方もいるほど節税が可能です。
②社会保険料負担を軽減できる
役員であっても従業員の社会保険料の一部は会社が負担しています。そのため、役員報酬を減らすことで社会保険料の負担を軽くすることができるのです。役員社宅を提供する形にすることで、会社が負担する家賃の分だけ役員の報酬を減額し、さらに残りの分を徴収することで、見かけの役員報酬を減額できます。今まで役員自身の口座から支払っていた家賃を、あらかじめ会社が支払い及び徴収するだけなので、実質の給与額に変更はありません。
③役員報酬の手取り増
役員社宅を導入することで役員の手取りも増やすことができます。理由としては役員社宅では、家賃の一部を会社が負担するため、家賃負担が軽減されるからです。また、役員報酬から会社へ支払う社宅の家賃分が引かれる為、所得税や社会保険料、住民税などの負担が軽減されることとなります。
もし、役員社宅制度を取り入れず、役員が個人で住居を契約した場合には、単なる給与からの自己負担となります。しかし、役員社宅制度を活用すれば、会社としても個人としても税効果が得られます。
節税するための要件
①賃料相当額の計算
役員住宅制度で節税するためには、賃貸料相当額を計算する必要があります。
賃貸料相当額とは国税庁の定めた一定額の家賃のことです。賃貸料相当額には住宅の床面積によって3タイプがあります。
・小規模な住宅
・小規模でない住宅
・豪華住宅
3タイプの住宅のうち豪華住宅に関しては法人名義であっても経費として計上できません。そのため以下では小規模な住宅・小規模でない住宅の規定と賃貸料相当額の計算式について説明します。
*小規模住宅の場合*
小規模住宅とは下記の条件を満たした住宅の事を指します。
・法定耐用年数30年以下:床面積132平方メートル以下の住宅
・法定耐用年数30年超:床面積99平方メートル以下住宅
区分所有の建物は共用部分の床面積を按分し、専用部分の床面積に加えた所で判定します。下記3項目の合計額が賃貸料相当額になります。
1.その年度の建物の固定資産税の課税標準額 × 0.2%
2.12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/(3.3平方メートル))
3.その年度の敷地の固定資産税の課税標準額 ×0.22%
建物の固定資産税の課税標準:400万円
建物の総床面積:70㎡
敷地の固定資産税の課税標準:600万円
400万円×0.2%=8,000円
12円×70㎡/3.3㎡=255円
600万円×0.22%=13,200円
賃料相当額=1.+2.+3.=21,455円
*小規模以外の住宅の場合*
役員に貸し出す社宅が小規模住宅でない場合、自社所有の社宅と借り上げ社宅で賃貸料相当額の算出方法が違います。
1.自社所有の社宅の場合
次のAとBの合計額の12分の1が賃貸料相当額になります。
A(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)× 12%
ただし、法定耐用年数が30年を超える受託の場合には12%ではなく、10%を乗じます。
B (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)× 6%
建物の固定資産税の課税標準:2,000万円
敷地の固定資産税の課税標準:3,000万円
A 2,000万円×10%=200万円
B 3,000万円×6%=180万円
賃料相当額=(A+B)/12=316,667円
②役員社宅の家賃の決定
役員住宅の家賃は、会社側の負担額が家賃相当額の50%を下回る範囲内で決めましょう。
ここで注意したいのが、家賃相当額イコール実際に支払う家賃ではないということです。
不動産会社が設定している家賃の50%を徴収すると、節税効果が薄れてしまいます。必ず前のステップで解説している条件で家賃相当額を算出しましょう。実際に賃貸料相当額の方法で計算すれば、役員の負担分は50%よりも少なくできる場合が多く、10~20%が目安になります。
つまり、家賃100万円の物件を借りる場合、損金処理は以下のような計算になります。
・役員負担が50%→会社の損金は50万円/月
・役員負担が20%→会社の損金は80万円/月
このように簡単な例をみても大きな差になるので、家賃相当額を基準に負担額の配分を決めてください。
③社内規定の制定
役員社宅制度を導入する際には、事前に社内規程を制定する必要があります。
すでに従業員用の社宅制度があるという場合でも役員社宅に関しては別途規程を設けなくてはいけません。
理由としては、役員と一般の従業員では、税務上の扱いが違うからです。規程では以下のような項目をあらかじめ制定しておきましょう。
・役員と会社の家賃負担割合
・諸費用の支払い方法
・利用に関する決定事項
役員社宅の規程が定められていないと、税務調査などで問題になるリスクがあります。
役員社宅の導入が決まった時点で作成に取りかかるようにしましょう。
例)
(役員が負担する賃料)
第〇条
各社宅で入居者が負担する賃料(利用料金)は、次の通りである。
借上げた家賃の20%
(利用料金の徴収)
社宅の利用料金は、当月分を当月給与より天引きすることとする。
入居時・退去時が月半ばのときは、日割りにて計算し徴収する。転勤のタイミング上、居住していない期間の家賃は、会社で負担する。
役員社宅で節税対策をする時の注意点
①役員住宅は住宅ローン控除が適用外
個人で住宅を購入する際には、住宅ローン控除で大きな減税を受けられる場合があります。
しかし法人が住宅を購入する場合には住宅ローンの控除がありません。
したがって、会社で物件を購入しようと検討しているのであれば住宅ローンがないという事を念頭に置いて資金計画を組みましょう。
②すでに所有している住宅を役員社宅にすることは難しい
役員が現在住んでいる住宅を役員社宅に変えようと考える方も多いでしょう。
しかし、もともと個人名義の住宅を法人名義に変更することは簡単ではありません。
手続き上は、賃貸契約の名義を個人から法人に切り替えて、家賃支払いは会社から、役員の家賃負担分は役員報酬から天引きという形をとることができます。
しかし、社宅はそもそも従業員の住環境を会社が補助するものであり、福利厚生の一環です。
だから、すでに問題なく住んでいるパターンであれば社宅として会社から補助金を出す理由がありません。
税務署からは「社宅」ではなく「住宅手当」と判断されて課税されてしまう可能性もある点に注意しましょう。
③家賃以外の負担金は経費にできない
役員社宅を利用するとき家賃以外の費用は経費にすることができない点に注意が必要です。たとえば水道代・ガス代・電気代などの光熱費を会社が負担してしまうと、役員報酬となり課税対象になってしまいます。会社が負担することを役員社宅の規定に盛り込んでも非課税にはなりません。