法人で買うメリット・デメリット

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不動産物件を購入する場合、法人を持たれている方ですと法人で購入するか個人で購入するかを迷われる方もいらっしゃるかと思います。
ここでは法人で購入するメリット・デメリットを簡単にご紹介します。

法人で購入するメリット

①所得税が法人税に変わり、節税になる
個人が収益不動産を運用し家賃収入を得る場合、その収益に対して所得税が課税されます。
所得税は累進課税であるため、不動産所得や給与所得などさまざまな所得を合算した金額が高くなると税率も高くなってしまいます。

たとえば、課税所得900万円を超え1,800万円以下になると、所得税率は33%となり(控除額153万6,000円)、
住民税と合わせると所得に対して43%の税が課されてしまいます。また、復興特別所得税が所得税額の2.1%かかります。

それに対して、法人名義で運用した収益不動産の家賃収入は、他事業による収益と同じく法人の所得として扱われ、法人税が課されます。法人税は資本金の額や所得金額などによって変わりますが、資本金1億円以下の中小企業の場合、実効税率が33%程度なので、個人の課税所得が900万円超のケースでは法人税のほうが節税となります。

ただし、法人を設立すると個人とは別会計となりますので、給与所得や事業所得との損益通算による節税スキームが適用できなくなります。損益通算による節税スキームを利用されている方は、慎重に判断してください。

②法人所有は個人よりも経費化できる範囲が広がる
法人は個人と比べて、経費計上できる項目の範囲が広がる傾向にあります。
個人事業主とは異なり、法人化すると経営者本人の給与・賞与・退職金、出張時の手当などを経費として損金に参入できるため、
課税所得金額を減らすことにつながり、大きな節税効果が期待できます。

法人だと、家族を役員や従業員にすることができ、役員報酬・給与を支払うことができます。
この家族の報酬・給与も経費として計上することが可能です。個人事業主でも家族を従業員にすることはできますが、経費にするには一定の制限があります。

また、法人のみを対象とする法人保険の掛け金も必要経費として計上可能です。
2019年の法改正の影響もあり、解約返戻率の高い保険(貯蓄性の高い保険)での損金計上割合いは少なめになっていますが、個人事業主には存在しない一定の経費を計上できる点において、節税対策で有利といえるでしょう。

③法人所有は減価償却で任意償却が認められる
減価償却費によって、所得税や住民税、法人税が軽減される点は個人事業主、法人ともに共通です。
ただ個人事業主の場合は毎年一定の減価償却費を計上する必要がある一方、法人の場合は毎年の減価償却費用の枠内であれば自由に金額を設定し、必要経費として計上できます。これを「任意償却」といいます。

例えば500万円の利益が出た年度において、その年の減価償却費が600万円だと仮定しましょう。個人事業主だと、減価償却費600万円を当該年度の必要経費として計上しなければなりません。ところが、法人であれば600万円の範囲内で自由に設定できますので、そのまま600万円を計上することはもちろん、0円や50万円に設定して黒字決算になるように調整することも可能です。

あまりにも露骨に決算調整することは会計ルール上禁止されており、現在では減価償却費を使った経費の調整はあまり行いません。
後で説明しますが、法人の欠損金は10年の繰越しが可能となっているため、減価償却費を使って利益調整をする必要はなくなってきました。ただ、法人は経理状況を常に明らかにする法的義務があることから、「任意償却」のような柔軟な会計処理が許される傾向にあります。

④法人所有の方が相続対策が容易になる
不動産投資事業を「法人化」することで、将来発生するであろう「贈与税」や「相続税」の負担を軽減できる点も大きなメリットです。そもそも収益不動産を事前に法人所有にしておけば、不動産に関して相続自体が発生しません。また、財産を引き継がせたいご家族を法人役員にすることで、「役員報酬」というかたちで相続分を実質上先渡しすることもできます。

個人事業主として経営する事業を贈与する方法もありますが、その場合は「贈与税」がかかります。贈与税の税率は基礎控除後の課税価格3,000万円以下で50%、3000万円超で55%と高めですので、そのまま贈与という形での事業譲渡は現実的ではありません。しかし、あらかじめ法人化しておくと役員交代による事業承継となり、税金の負担を大幅に軽減できます。

収益不動産を法人所有にしたうえで、設立法人の株主を相続人にすることも効果的です。もし被相続人となる前オーナー様が法人の株を全部保有していた場合は、相続発生時に株式の相続が発生します。ところが、あらかじめ相続人を株主にしておけば株式の相続自体も発生せず、事業承継がスムーズとなります。

たとえば、妻、長男、次男、長女の4人の相続人がいて、賃貸経営の事業を長男に継がせたい場合を考えます。その際は、長男に普通株式を、残りの3人には議決権制限株式を相続させると、権限の分散を避け、後継者に議決権を集中させることができます。

このように法人による節税方法は多彩です。保有する不動産やオーナー様の置かれた状況にあった対策をとりやすい点でも、法人化によるメリットは大きなものとなるでしょう。

法人で購入するデメリット

①法人成りの債務引受では金融機関や信用保証協会との調整が必要
個人事業から法人成りをすると、以前に個人で負っていた債務は法人が引継ぎます。不動産投資事業にあてはめると
「不動産投資ローンを法人名義で引継ぐ」ということです。このような債務の引継ぎのことを、法律用語で「債務引受」といいます。

「債務引受」は債権者側(お金を貸す側)の金融機関から見た場合、お金を返す人(債務者)が個人から法人に変更される(あるいは追加される)ことを意味しますので、金融機関側(債権者)の「承諾」が法的要件となっています。

債務引受のかたちとしては、以下の2つのパターンが一般的です。

1つめは「免責的債務引受」です。これは新法人が個人の債務を全て引き受けるかたちを取るもので、わかりやすく言えば債務者を個人から法人へと交代する方法です。

2つめは「併存的債務引受」で、こちらは個人事業主本人に追加して法人も債務者に加わることで、債務(ローン返済分)を共に負担します。

実務上多いのは、金融機関にとってのリスクを分散できる「併存的債務引受」です。なお法人に対する新たな融資審査の際には、オーナー様が法人の連帯保証人につくかたちで融資実行されることが通例となっています。

法人化さえしてしまえばローンも自動的に法人に受け継がれるわけではありませんから、この点にはご注意ください。債務引き受けの中身について、債権者の金融機関や保証人となる「信用保証協会」などと調整する必要があります。

②5年以上の長期保有した後の売却では税率が高くなる
法人のほうが税負担が重くなるケースも存在します。
その1つが保有期間が5年を超える不動産を売却する場合です。不動産の売却で得た売却益は「不動産所得」となりますが、法人ではさまざまな損益と合算したうえで法人税が課税されます。法人税の税率は経営規模によって違いがあるものの、一般的にはおよそ23%前後、地方税や事業税などの税金も含めると約30%前後が相場です。

一方、個人で不動産を売却して得た「不動産所得」については、売却した不動産の所有期間で税率が異なります。
保有期間が5年以下の不動産の売却益(短期譲渡所得)に対しては税率39.63%、保有期間5年以上の不動産の売却益(長期譲渡所得)については税率20.315%です(復興特別所得税を含む)。

つまり、短期保有する不動産を売却する場合は法人の方が有利、逆に5年以上長期保有した不動産の売却では法人が不利ということです。ただし、法人税については売却益の規模や資本金の額によって変動するので、正確な税率は税理士に算出してもらう必要があります。あくまでも一般論として長期保有後の不動産売却は「法人が不利」と理解しておいてください。

③法人における決算申告を行わなければいけない
法人化した場合は「決算書」を作成し、決算申告を行わなければなりません。
「決算書」とは、会社が自社で決めた決算月で会計を締め切り、それまでの1年間の業績を集計してまとめた書類のことです。
帳簿を作成して決算整理仕訳を実施したのち、申告書の作成と税金の金額計算を行います。

会社の経理状況を明らかにするきわめて重要な書類で、法定のルールも厳格です。
金融機関からの融資審査でも「決算書」は第1資料として扱われるため、決算書の内容は経営そのものにも大きく影響します。

決算書の作成にはかなり専門的で高度な知識も要求されるため、顧問税理士などの専門家と顧問契約を結び、作成を依頼しなければなりません。法人の年商にもよりますが、顧問契約料の相場は年間50~80万円程度といったところで、物件数や顧問業務の内容により変動します。個人事業主と比較すると、一定のランニングコストがかかる点はデメリットといえます。